なぜかなどは知らないがその言葉は唐突に告げられてあたしはとても戸惑ってしまったのだ。
だって考えてみてほしい、あの、あの、あのティエリアが、普段クール・コールド・ツンドラ気候なティエリア・アーデが、急に人の腕を引っ張って「用がある」と言ってぐいぐい廊下まで引いてって、おいてめえ何の用事でも構わ ないからもう少し労われあたしは普通の……とはこのトレミーに乗っている限り言えないけれどあなたと比べたら非常に普通で非力な女の子なんだぞと思った途端口に 出してないはずなのに肩を廊下の壁にダンッって押し付けられたらまずこの地点で戸惑うっつーか焦ってびびるでしょ。その上でこちらをすごく鋭く睨んでいて「お 前は何も言うな」とか言われたらこれは無意識のうちに失態を犯していてその所為で殺されるのかなって思うでしょ普通! まああたしはそう思ったわけで、で も死にたくないから無言で首をこくこくと縦に振ることしか出来なかったんだけど。
途端何か、ティエリアの様子が変わったな、とは感じた。なんていうか、躊躇している雰囲気がコンマ3秒ぐらいあったんです。けれども彼はすぐにあたしの目を見てきた。思わず息を呑むあたし。これは死んだな、と確信した瞬間。
「」
「は、はい」
「好きだった」
「……へ?」
「お前が、好きだった」
しかし告げられた言葉は予想外にもほどがある言葉で、あたしは鳩が豆鉄砲と風船爆弾と核兵器を同時に食らう1秒前のような顔をしてしまった。え、なに、今 の言葉実はあたし違う単語と勘違いしてる? 鋤かなにかと勘違いしてる? と相当本気で考えたのだけれど、目の前の彼が唐突に鋤の話をするとは思えないし 彼は真剣な目をしているし躊躇している雰囲気の説明もついてしまうしで、ようやく現実を見つめたあたしは驚きすぎてその場でしゃがみこんでしまった。気づ いたら肩からティエリアの手は離れていたしティエリア自身もどこかに行ってしまって、残ったのは鈍くさくて多分顔が真っ赤だっただろうあたしだけだった、 というわけだ。
そんな過去がつい1時間ほど前の話、今あたしはロックオンの部屋にいる。休憩室とかでもよかったのだけれど話す内容が内容なのでティエリアいたら話しづら そうだよなあと思ってわざわざロックオンの部屋にまで来たわけである。ドアが開いた途端ハロアタックされたのには驚いたし痛かったが。
「ていうわけで、あんたたちまたしょうもない賭け勝負したんでしょ」
「事情はわかったが……へえ、あのティエリアがねえ」
ふむふむ、と頷くロックオンを見て、え、と妙に平べったい声を出してしまう。あたしが導き出した結論は「そうだ、あれは罰ゲームだったに違いない」という ことだったのだが……え、何、違うの? たずねてみれば「いいや」と即座に否定され、さらに「ていうかティエリアがそういう勝負事に負けるところ想像でき るか?」とも言われて納得してしまう。まあ、誰が負けるところも想像できないけど。
「でもそうか、あいつ言ったのかー」
「いったのか、って……ロックオン、知ってたの?」
少なからず驚く。ティエリアの性格上、だれかにそういうことを相談するとは思えない。という私の心中を裏切って、ロックオンは「まあ、見りゃわかるだろ。 あからさまだったから」と返されてさらに驚いた。ええええええ、あたしわからなかったよ気づかなかったよ、周囲は気づいてるのに当人たちは気づいてないとかどこの少女マンガだよ……! さまざまな衝撃に 頭がぐちゃぐちゃになりつつある状態であるあたしに、彼は畳み掛けるように「刹那は微妙だが、多分アレルヤも気づいてるだろ」と痛恨の一撃を繰り出す。さ すがだぜスナイパー、油断も隙もありゃしない。
「で、返事に困ってるとかそういうのか?」
「いや、返事は要らない、というより言うなって空気だったんだけど……だから困るんだよ!」
「は?」
いまいちよくわからん、と顔が語っているロックオン。ううう、恥ずかしいけど相談せにゃならんのだし、ええい言ってしまえ!
「――あたしも、好きなんだよっ!」
ここまできたら半ば自棄である。え、うそ、という非常に正直で失礼な本音を漏らすマイスター。だったらいいじゃねえかおめでとう、と言った途端に、あたしの考えが読めたらしく「あー」とつぶやいた。
「そうか、でも返事できないから」
「いったいあたしはどうすればいいのかってむしゃくしゃしてるんだよー!」
そうなんです。わーいティエリアも好きってこれ何夢ですか夢じゃないの現実なのねやったーっておいどうして返事するなって断ってから言ったんだお前! と いうような心境なのである。大体、思えばあの言葉もおかしい。返事を求めず、最初から過去形で語っているんだもの。それではまるで、彼は既に諦めているか のようだ。じゃあ何のためにわざわざ言ったのだろう。いや、改めて諦めるために告げたのか……?
ブツブツつぶやくあたしに向かってかはたまたただの独り言か、「俺たちは大切なものが命取りになる可能性があるからな」とロックオンがもらす。首を傾げた ら苦い笑みを返されて、「あいつのことだ、それを考慮して終わらせようとして無理やり言葉にしたのかも知れねえな」というセリフ。それって、あたし、総無 視ですか……! ああでもティエリアならやりかねない! 気がする。あたしもそれなりに失礼だなとは自覚しています。
「あーもう、男って何考えてんだかさっぱりわかんないー!」
「実践込みで教えてやろうか?」
「ロックオンに相談したあたしが阿呆でした」
勝手にベッドの上にボスッと伏せながら即答しちゃう。こんなことを言っているが、ロックオンにはとても真剣に、熱烈に、大事に想っている人がいる。今のと ころ片思いだ、ということまで知っていて、本気に取る人はいないだろう。そこまでロックオンが尻軽だとも思いたくない。ひっでえな、と笑いながらロックオ ンはハロを手に取る。耳のような部分を動かしつつ、「アホウデシタ!」と繰り返されて、なんかへこんだ。涙まで出てきた。あたし疲れてるなあ……。
「うーん、とりあえずさ、返事するなって言われたんだろ?」
「うん……」
「だったら口にしなきゃいいだけじゃねえのか?」
あっさりと出された答えに、はあ? と眉間にしわを寄せてしまった。何、手紙でも書けばいいの……? 多分ティエリア意図的に読まないよ。読んじゃったら 返事止めた意味なくなるもの。もちろんロックオンもわかっている。わかっているのになんなんだそのいやらしい笑みは。考えがあるんだけど、と手招きするの で近づいて耳を傾ける。
…………え、それは、どうなんだ、ろう。
(※これは決してロックオン夢じゃありません)(20071102)