休憩室に入った途端、視界に入ったのは珍しいような珍しくないような組み合わせ。その二人が額を寄せながら比較的真剣な顔をして二人の年齢にふさわしいも
のを作り上げていたものだから、彼、アレルヤ・ハプティズムは思わず微笑んでしまった。渇いた喉を潤すべく、と言うよりも気休めの一種として飲むために
コーヒーメーカーの方向へ歩みを進める途中で、不思議な組み合わせの片方が彼の存在を認め、ガタリと席を立った。もう一方に何事か告げた後、彼女は少し遠
慮がちにアレルヤに向かって近づいてくる。
「ええと、あの……兄さん、」
「僕だよ、」
口ごもった理由を察して先回りすれば、彼女は安心したかのような微笑を浮かべた。と呼ばれた少女は、一応アレルヤの妹に当たる。と表現したものの、
血はつながっておらず、それどころかこの関係は戸籍にも認められていない。今より少し前、まだ世界が今以上に戦場だらけだったとき、彼がただの気まぐれで拾った。た
だそれだけの関係だった。
も飲む? と尋ねたアレルヤに、「大丈夫です」と首を横に振る。義理とはいえよく出来た妹だ、とアレルヤはしみじみ思った。
「刹那と何をしてたんだい?」
「ジグゾーパズルです」
「ジグゾーパズル……」
芸もなく復唱してしまったのは、ここがプトレマイオスの中、つまり無重力空間だからだ。完成するの? というもっともな彼の問いに対し、は「たぶ
ん」と笑って答えた。終わるかどうか実験しているのか、それとも終わっても終わらなくてもいい、ということなのか。刹那の方を見ると、彼はケースの中――
おそらくその中で完成させようという目論見なのだろう――からはみ出してしまったパズルの欠片を戻すのに悪戦苦闘している。先は長そうだ。
しかし、アレルヤが知る限り、刹那は決して自らパズルなどを解きたがる人間ではない。よく刹那を引き入れられたね、と思わず口にすると、は少しおかしそうに笑った。
「勝った結果なんです」
「? 何に?」
「モノポリー」
アレルヤ兄さんのおかげですね、と話すの笑う理由がようやくわかった。つまり、自分の得意なフィールドで相手を負かせたのだろう。確かにアレルヤ自
身が得意なので、よくともモノポリーをやったが、と再度刹那を見やる。負けて渋々やっている割には顔は真面目極まりなくて、果たしてそれだけが理由
かな、と彼は心の中だけで呟いた。
それにしても、刹那と仲がいいことは知っていたけど……。
刹那とは同い年ぐらいだ。の年が正確にはわからないので「ぐらい」止まりなのだが、
それでもはやたら刹那に構っていた、というより構ってもらおうとしていた。同い年ぐらい、という点ではティエリアも同様なのだが、彼に対してはいわく「なんだか……よくわからなくて怖い」らしい。には申し訳ないが、アレルヤから見れば彼女の言葉はそれなりに嬉しいものでもあった。逆に刹
那と親しくしようとすることをあまり好ましく思っていない部分もあった。刹那の性格などが問題なのではなく。この間もロックオンにさりげなく「少しは自立
してみろよ」と言われてしまった。
今においてどうでもいいことに悩んでいる彼に全く気がつかないは、アレルヤを見上げ、至極楽しそうに、嬉しそうに話す。
「モネという画家の、『睡蓮』という絵画をパズルにしたものなんです。見本の絵だけでもすごく綺麗で」
「ああ、フランスの。20世紀の作品じゃなかった?」
「さすがアレルヤ兄さん! 私、説明書読むまで知らなかったのに」
瞳を輝かせ、純粋な憧憬のまなざしでこちらを見るに、実は「モネは19世紀後半から20世紀前半に生きた人物で『睡蓮』は晩年の作品だったはず」ぐらいの知識しかないアレルヤは少し心が痛んだ。だがまあ、これくらいの見栄は許されるだろう。
ふと、唐突に視線を感じ、ちょうどいい具合にコーヒーも出来上がったので、苦笑しながらを促すことにする。
「ほら、刹那が待ちくたびれているよ」
「え?」
が自身の後方を振り返る姿が素直すぎて、笑みがこぼれた。少なくとも、刹那よりは上と考えていいようだ。続けておいで、と背中を軽く押すアレルヤ
に、はいと笑って、けれどは彼の手を両方の手で包むように握った。少し面食らったアレルヤに、彼女は柔らかい笑みを浮かべる。
「完成したら一番に見せますね」
「……ああ、楽しみにしているよ」
小さな笑みを零して、アレルヤは義妹の頬に軽くキスをする。くすぐったそうには目を細めて、彼女も義兄の頬へとキスを返した。タンッと軽く床を蹴っ
て刹那の元に戻る彼女を尻目に、出来上がったコーヒーを手にして彼は休憩室の扉へ向かう。ごめんなさい待たせて、というの声とともに、ドアを機械音
とともに、閉めた。
自分の部屋へと戻りながら、ふと、の先ほどのためらいを思い出す。
彼女は、アレルヤとハレルヤの区別がつかない。過去についうっかりハレルヤを「アレルヤ兄さん」と呼んでしまって以来、それにハレルヤが激怒して以来、彼女に新たなトラウマが根付いてしまった。
苦く黒い液体を口にしながら、アレルヤは目を伏せる。
――嗚呼、ハレルヤ、本当の彼女の兄は僕じゃないのに。
気まぐれで拾ったのは「ハレルヤ」の方。もしもと出会ったのがアレルヤだったら、決して拾いなどしなかっただろう。自分でもそう思う。この戦乱の世、拾った後に養える保障な
どないのだ。だがハレルヤは拾った。そしては、ハレルヤもアレルヤも兄として接し、アレルヤに笑顔を、ハレルヤに怯えを見せる。
罪悪感を感じないといったら嘘になる。しかし彼は、アレルヤはこの関係が逆になってほしくないと思った。ハレルヤにも笑顔を分けてほしくない、とも。
深く考える前に彼は瞳を開けた。コーヒーに映った瞳の色は澱んだ緑色だった。
全ての罪は愛から始まる。
さて、
愛は罪から始まるか否か。
(かわいいかわいい僕たちの妹 でも俺たちはきっと歪んだ愛を持っている)
タイトルは207β様「抜き取り式お題06」からお借りしました。多謝です。
(アレルヤとアレルヤの尻に夢中な蒼燈たんに捧げます「アレルヤの妹設定」
ここで「待ってよぉアレルヤおにいちゃ〜ん!」系な妹を書かないのが私 義理の兄妹設定万歳
拾ったのハレルヤなのに彼のほうが疎まれちゃってるとかかわいくないですか ちがいますかそうですか
無重力でコーヒー淹れたら最悪だよね、とか途中で気づきましたがまあ気にするな アレルヤならいける(何が))
(20071109)